理性
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前々回のアンケート、トカレフ1位ってマジ?予想GUYなんだが。絶対GLEAMだと思ってた。お前らbeta版ちゃんとやりました?アレやってまだトカレフに期待できるのか?もしそうなら……ちょっと本腰入れてやらんとな。最近全然進んでないから。せめて1日n分は作るとか定めないと詰んじゃうツモ。
トカレフなぁ……「あの景色」につなげるための線がどうしても浮かび上がらない。宗教、倫理、道徳、すべてのセンシティブな要素をくぐり抜けてトカレフがトカレフ足り得るためにはキャラクター・ディベロップメントにすべてがかかっている。だが俺の中にハッキリとしたニドやシレイの人格がない。キャラクターはすべからく物語の奴隷でなければならないが、奴隷であると感じさせてはいけないのだ。いっそ二周目から作ろうかな……ヴェラコットとパイは人物像が鮮明にあるんだよ。ていうか今思ったけど周回のたびに主人公が変わるってこれニーアオートマタ?これは呪いか、それとも罰か――目標:ニーア越え。ゲームとしてのクオリティとかじゃなく、シナリオとして越えたい。読み物として見た時のオートマタは相当お粗末だと思っているのでテーマがやや似てることもあり流石にアレよりは頑張りたい。
ていうか今思い出したけど、2周目ラストでやろうとしてたこと完全にニーアに先にやられてたんだよな。詳しく言うとネタバレになるからあれだけど、かんっぜんに先にやられた。でもあれでああいうネタは盛り上がるっていうのがわかったからやっぱり入れる。そこまで珍しいイベントでもないし。
ケッシュウのとき見たく構想を雑にメモすれば何か湧くかと思ったけど沸かなかった。
CrossCodeみたいなレベル引き継ぎで会話変わる奴絶対入れたいな。4周目とかにならんと引き継ぎもクソもないけど今回のシステムだと。
以下、トカレフのノベライズを試みていた時期の文字産廃。beta版だと一層終わりの所まで。この辺は全面的にボツになる予定。
1XXX年、トカレフという国に一人のトレジャーハンターがいた。
その男の名は「ニド」。風変わりな名前だが、不思議と人々の耳に残る音だった。
男は元軍人で、その並外れた身体能力と繊密かつ安定した調査力によって数々の財宝を探り当てていった。また、彼は出会った魔物を「殺さない」という他のトレジャーハンターには見られない特性を持っていた。トレジャーハンターの真髄は、魔物狩りのような魔物を蹴散らす強さではなく、如何に魔物と遭遇せずに済むようなルート取りができるかにあるとし、極力魔物との戦闘を避けていたのだ。無用な殺生をせず、宝だけを奪い去っていく彼のスタイルは、この世界で少なからず評価されていた。
しかし、ある時悲劇が起こった。とある洞窟で、ニドは大きな宝箱を発見した。彼は普段は用心深い男だったが、その時に限って彼はなぜか何の疑いもなく宝箱を開けた。だが、それは呪われた箱だった。気がつくと、彼の身体はもはや、人間のものではなくなっていた。それは、「人を異形に変える」呪いが込められた箱だったのだ。
醜い異形に姿を変えられたニドは、自らの名誉のためか、魔物として殺されるのを恐れてか、静かに表舞台から姿を消していった。
***
「うーっす」
一人の男が酒場のドアを開けて入ってきた。「いらっしゃい」主人らしき男がグラスを磨きながら素っ気なく返事をする。来客は適当にあたりを見回すと、一番近くにある席に乱雑に腰掛け、主人の方に身体を向けるような形で話しかけた。
「マスター、いつもの奴で」
「はいはい」
主人がグラスにブルーマティーニを注ぎ出した。グラスの中では、海のような深い青色の水が注がれるたび、がらがらと心地の良い音を立てて氷が揺れた。
男はもう一度、今度はゆっくりと店内を見回した。今いる客は自分を含めて三人程度。きわめて閑散としている。とはいえ、男はこの店の常連だったので、このような光景は慣れっこであり、むしろこの空間が彼の気を落ち着かせた。この店には、酒場にお決まりのありきたりなジャズ音楽のようなものは流れていない。かといって別の趣向を凝らした音楽が有るわけでもなく、場は時計の針の音が聞こえるくらいの静寂に包まれていた。
季節は真冬だが、店内は寒くはない。店の片隅でぱちぱちと揺れている暖炉のおかげだ。冬の凍てつくような空気は暖炉のぬくもりと溶け合い、不思議な暖かさで場を抱擁していた。男は小さく息を吐いた。
「『あいつ』はまだ帰ってきてないのか?」
「帰ってきてないねぇ。もう一週間くらいになるかな……。少し心配だよ」
店長が少し物憂げに目を伏せた。まるで都会に引っ越した息子を案じる母親のような様子だった。一方、男の方はまるで気にしていないと言った様子で笑った。
「ま、大丈夫だろ。なんていっても、あいつは世界一の……」
その時であった。ばんという轟音とともに、雪の降りしきる外へと続くドアが乱雑に開けられた。少ない客と主人が一斉に音の方へと振り返る。
開ける勢いが強すぎたためか、その『来客』の足元には小さな木屑が散っていた。『来客』は静かに顔を上げた。しかしその表情は見えない。それは背広に無理矢理縫い付けたらしきフードで顔全体を覆っていたためである。しばらくして、先程とは打って変わって、鹿威しのような静けさを以てドアが閉まった。
『来客』が入ってきてからも場はしばらく静寂に包まれていたが、やがて主人が破顔した。
「ニド!久しぶり!」
「噂をすればなんとやら、だな」男が続けた。
ニドと呼ばれた来客は、主人の歓迎に曖昧に頷くと、外で浴びたらしき細雪を払いながらずんずんとカウンターの方へ歩を進めていった。
「ようニド!しばらくだな。呪いは解けたのか?」男が囃し立てるような口調で呼びかけた。
「バウムか。顔を見れば分かるだろう、解けていない」
「そうか、またダメだったかー。ま、次があるって!気にすんな!」
「他人事だと思って……」
ニドは苦虫を噛み潰したような顔をしてバウムと呼ばれた男に一瞥を寄越し、次いで店主の方へと向き直り、カウンター席へ腰掛けた。主人も「どんまい」とでも言いたげに眉を曲げて彼を迎えた。
「しかし、あの人でもダメだったか。世界一腕のいい呪術師なんだけどねぇ。お前の罹った呪い、相当厄介らしいな」
「全くだ。この二年間、目を皿にして解呪法を探したが全く糸口が掴めん。解呪関連のアーティファクトの温床である『ハル遺跡』にさえ有用なものはなかった」
「えっ!お前、あのバケモノの巣窟の宝全部取ってきたのかよ!相変わらずとんでもねぇな」
バウムが横から口を出した。ニドはそれに答えず、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を組んで呟いた。
「もう限界だ。こうなれば……あそこに行くしかない」
「あそこって……まさか、まさか、ウロウツボのことかい?『願いが叶う秘宝』が眠るっていう……」
主人は驚きながら言った。ニドは表情の見えない顔を前に倒して肯定の意を示した。
ウロウツボ――それは『願いが叶う秘宝』が眠るという、人類最後の秘境である。正確には、「ウロウツボ」とは複数の建築物の総称であり、直線上に連続的に立ち並んだ四つの神殿―「ウ」「ロ」「ウツ」「ボ」をまとめてそう呼んでいる。なぜこの遺跡に『願いが叶う秘宝』が眠るという噂があるのかというと、ここは古代アグリア人が建設した最大の遺跡だからだ。古代アグリア人とは大昔の『古代アグリア文明』を築いた人々のことで、彼らの脳は現代人よりも発達していたとされ、現代の技術を結集させても到底実現不可能なほどの超科学技術を持っていた。彼らの生み出した遺物は「アーティファクト」と呼ばれ、高い値で取引されている。アーティファクトの種類は様々で、僅かな熱エネルギーを膨大な電気エネルギーへと変える箱や、数年先の未来を映す鏡、霊界への移動、読心術、はては蘇生術など、あまりに高度な技術のため、それはもはや科学ではなく「魔法」なのではないか唱える学者もいるほどだ。
しかし、彼らの文明の痕跡はこのトカレフの大地にしか残されておらず、アーティファクトが発見できるのはこの国に遺された数点の遺跡の中だけである。どの遺跡も非常に入り組んだ構造をしており、様々な罠・凶暴な魔物が巣食っているため、民間人はもちろんのこと、熟練のトレジャーハンターでもやすやすと探索できる場所ではない。とりわけ「ウロウツボ」に関しては、遺跡発見から半世紀以上経った今でも未だ最深部まで辿り着いた者はおらず、「帰らずの遺跡」「死の神殿」など様々な異名がつけられている。厳密には、ただ一人「イド=ガルア」という伝説の探検家が五十年ほど前に攻略したと主張していたが、宝を持ち帰らなかったため証拠が無く、虚言だという見方が強まっている。故に、公式には依然として未攻略の秘境なのだ。
「ニド、お前が凄腕なのは重々承知だが……あの遺跡へ行って生きて帰ってきた者はいないぜ。やめといた方がいいと思うがね」バウムが呆れるように言った。
「バウムの言う通りだよ。命あっての物種なんだから!焦らずに探していけばいいじゃないか?」店主がなだめるような口調で続けた。
「いや、もう待てない。二年だぞ。二年もの間、あらゆる遺跡を血眼で探し回ったが見つからなかったのだ」
「それは……」
「呪いを解くアーティファクトがあるとすれば、もうあそこしかない。明日にでもウロウツボへ発つ」
「そんな!ニド、早まっちゃダメだよ!」
踵を返したニドを、店主が慌てて止めようとした。
「そうだぜ。それにそもそも、そうまでして呪いを解く必要があるのか?」
バウムも―店主よりは熱意がなさげに―説得を試みた。ニドは言葉こそ返さなかったが、彼の言葉で足取りを止めた。
「そりゃ、俺たちはお前の『呪われた姿』を見たことはないけどよ……。案外、心配しすぎなだけじゃねえの?思い切って顔を見せてみたら、意外とお前が思ってるほど大したことないかもしれないぜ」
ニドはゆっくりと振り向くと、人骨が剥き出しになったかのような手袋を被った左手をおもむろに顔の前にやり、顔を覆っていたフードを下ろした。
そこに現れたのは、烏のような意匠をした全面マスクであった。僅かに刳り貫かれた両眼のあたりの穴から視える緑の瞳を除いては、やはり彼の素顔は一切見えない。
数秒のあいだ、本人を除くその場の全員が、黙ってその顔を見つめていた。
「残念ながら私は、お前ほど前向きにはなれなくてね」
それだけ言うと、彼はそそくさとフードを被り直し、店の出口に向かって再び歩を進めて出した。
「待って!」
店主が立ち上がり、カウンターを回って駆け足で彼の元に向かった。そして、両手に握られた小瓶を差し出した。
「どうしても行くというのなら……これを持っていくといい」
ニドは顔だけ店主の方に振り返り、後ろ手でその瓶を受け取った。ラベルには「アーメスの葉」と書いてあった。それは、トカレフで十年に一度だけ栽培できる貴重な葉で、食べるとあらゆる傷や疲労がたちまち癒えるという、冒険者にとっては垂涎モノのレアアイテムだった。
「死ぬなよ……ニド。帰ってきて、ハンサムな顔をここの皆に見せてやってくれ」
店主は目を伏せ、震えるような声でそう言った。ニドは小瓶をしばらく眺めていると、懐にしまい、今度は身体も店主の方に向き直って言った。
「わかった、約束しよう」
「すげーな、お前ら。終盤のメインヒロインかよ」
バウムが冷や汗を垂らしてうめいた。店主は少し気恥ずかしそうにし、またも駆け足でカウンターへと戻っていった。
ニドは去り際、彼にしては少しだけ明るい口調でこう告げた。
「では、暫しの別れだ。十日のうちには戻る」
「お土産持ってこいよー!」
バウムがその背に向かって叫んだ。ニドは後ろ手で扉を閉めると同時に、出口に一番近い席に座っていた彼に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「冥土の土産ならな」
彼が一歩足を踏み入れた時、そこは「死の遺跡」の名を冠するには些か不釣り合いなほど綺麗な情景があった。頭上にはおそらく長い時間をかけて削り取られた鍾乳石が立ち並び、宝石のようにきらきらと輝いていた。蝙蝠や異形が跋扈しているという様子でもなく、何処からか流れ着いた水脈のせせらぎと、彼自身の足音以外は何も聞こえない、ある意味では荘厳とも呼べる程の静寂に包まれていた。しかし、ふと足元を見れば、そこには蹴鞠大ほどもある頭蓋骨が転がっていた。虚靭の謎を解き明かそうとした冒険者の亡骸だ。ニドはそれに驚愕の色を示す事も怖気付く事もなく、ただああそうかといったふうな一瞥をくれて地獄の深遠へと歩き出した。目的はただひとつ、異形の呪いを解くために。
虚靭に棲み着く魔物は「エンミティ」と呼ばれており、この遺跡内以外には生息しない。彼らの生態はきわめて特殊で、遺跡のあちこちに存在しているが「人間」の気配を感じない限りは動こうとしない。つまり、冒険者が入って来なければ延々と一点に立ち尽くしたまま過ごしているのだ。まるで石像のように。しかしひとたび侵入者を感知するとーこの知覚のメカニズムははっきりしていないが、『磁力』を読み取っているのではないかとされているー番人の如く襲いかかり、殺戮する。このような性質上、暫く冒険者の侵入を禁じて放置しておけば餓死するのではないかという試みも為されたが、どういうわけか彼らは食事を必要としないらしく、一年間の幽閉の効果は見られなかった。即ち、絶対の番人。これを掻い潜り遺跡の深層へ向かうには、彼らと出会わないように進むか、出会っても返り討ちにできるほどの力を身につけるしかない。しかしエンミティは理不尽とも言えるほど強力な筋力と生命力を持っており、第一層に棲む下級種族はともかく、それ以上の階層を支配している者達を討伐するのは現状の人類の戦力と科学力では不可能という結論に達している。
故に、多くの冒険者は「魔物との戦闘回避」を軸として探索に臨む事になる。魔物が定位置から動かないという事は、彼らの配置さえ覚えれば攻略は可能に思えるだろう。たとえ冒険者が道半ばで倒れても、その軌跡を後続に預ければ、少しずつだが深層へ進んで行ける。だが、この遺跡にはそれを退けるための特殊な術式が施されている。それは「入るたびに構造が変化する」というものだ。そしてこれこそが、靭靭を難攻不落の死の遺跡にしている最大の所以である。人類の叡智である「過去からの学び」や「積み重ね」が通用しないのだ。虚靭は、自身に挑んだ全ての死者を無為にし、その足跡を、生命の意味を一つ残らずせせら嗤う。
詰まるところ、この不落の要塞を突破するためには、自らの洞察力、マッピング力、罠探知能力、そして運を併せ持った者だけという事だ。その点、少なくともニドは技術は誰よりも長けていた。彼がトレジャーハンターに”転職”してからまだ十年と経っておらず、トレジャーハンターとしては新米の部類だが、前職の知識が多少なりとも役立った事と持ち前の才覚が合わさり、めざましい速度で探検家としてのランクを上げていった。神童である彼にとって、例え死の遺跡であろうと第一層程度ならさして苦も無く突破できるのだ。とはいえ、魔物との遭遇回避には神経質な程に気を使った。平生、彼が魔物との戦闘を回避する際は主に足跡や生活跡を頼りにするのだが、今回は敵が動かない以上、それらはさして当てにならない。故に、奴らの息遣い、「気配」を感じ取るしかない。官僚として長年死線を潜ってきた彼は、生き物の気配を感じることには常人より長けていた。まず、周囲におぼろげにでも魔物の存在を感知したら、それ以上は進まずにその円から遠ざかるようにしながら探索してみる。すると、ある地点から魔物の気配が途絶えることがある。或いは冒険者の遺骨があれば行動範囲がある程度狭まる。それらを頼りにしながら「魔物がいる可能性のある場所」を狭めていき、慎重に奥へと進んでいくのだ。これは非常に神経を使う作業だったが、「異形の呪いを解く」という決意を胸にした彼にとってはこの程度の痛苦は乗り越えるべき壁とも呼べなかった。絶対に、どんな手を使ってでも、この呪いを解く。彼の胸にあるのはそれだけであり、故にその想いは禍々しいほどに強力無比であった。
私が第一層に足を踏み入れてから、何時間経っただろうか。そう思って懐中時計を開くと、まだ半刻も過ぎていなかった。人間は精神を集中させていると体感時間が長くなるというが、しかし感じる疲労は引き伸ばされた時間に合わせて軽減してくれたりはしない。
背嚢から水筒を取り出し、水を一口飲む。
長期戦になるのは覚悟の上だったので、一週間は持つ程度の食糧は持ってきた。本音を言えばもう少し持って来たかったが、これ以上は重量が深刻な枷になる。
ただ進むだけならともかく、私の場合は「呪いを解くアーティファクト」を探す事が目的なので、同時にトレジャーハントもしなければならないのだ。取りこぼしがあってはならない。下層に目的の魔法具を取り残したのでは悔やんでも悔やみきれぬ。
そもそも、最深部に眠るという秘宝も噂に過ぎないのだ。真実であるという担保は何一つない。それでも、今の私が縋ることが出来るのはこの細い糸以外無かった。二年の歳月がそれを私に不可避の現実として刻み付けた。
マッピングも普段より慎重に行っている。永遠に続く闇のような回廊の中では、方向感覚を容易く失ってしまうからだ。その甲斐あってか、幸いエンミティとは未だ遭遇していない。万が一の事を考えて、遭遇しても逃走できる程度の装備は整えてきたが。
とはいえ、半日を過ぎるまでにはこの層を突破しなければまずい。疲労は判断力を鈍らせる。恐らく層の継ぎ目に休める場所がある筈だ。少なくとも、今まで古代アグリア人が建設した遺跡はそうだった。もっとも、そこを魔物が占拠している可能性は否めないが…その場合は別の侵入口を探すしかない。最悪の場合、このツルハシで横道を掘るしかないだろう。
考え事をしながら歩いていたのが災いしたのか、足に何かが引っかかり躓きかけた。視線を下ろした時、私は一瞬だが背筋の凍るような思いがした。それは人間にしてはあまりにも大き過ぎる骨。明らかにエンミティのものだった。よくよくあたりを見回してみると、背骨、胸骨、指骨と思わしきもの、そして遠くには小柄な鯨の頭ほどもある頭蓋骨が転がっていた。
私は息を呑んだ。これほど巨大なエンミティを人間が倒したとはとても思えない。同士討ちでもしたのだろうか。
その巨大な頭蓋骨の裏に回ると、奥まった洞穴があった。角灯の灯りを絶やさぬよう注意しながら中に入ると、複数の岩で築かれたバリケードで行手が塞がれていた。これは明らかに人の手によって作られたものだ。状況を鑑みるに、昔の冒険者がエンミティに襲われそうになった所をこの洞穴に逃げ込んで籠城したのだろう。しかし、だとするとこのエンミティの骨の山には説明が付かない。奴等は餓死しないと言われているし、何より明らかに何かに殴打されたような損傷がある。否、奴らの生態など不明な点の方が多いのだ。これ以上考えるのは無駄だろう。
私はひとまず、岩のバリケードを退かして洞穴を探索することにした。上手くすれば此処で休憩出来るかもしれない。しかし、そこには先客がいた。否、「先客だったもの」の亡骸と言った方が正しいか。人骨だ。そしてその傍らにはこいつの持ち物らしき手提げと、擦り切れた手記があった。私は何となしにそれを拾い上げ、頁を捲った。そこにはこう書かれていた。
「俺はもうだめだろう。
歳とはかくも人の体力を
奪うものか。
魔物に噛まれた足が動かない。
頭も朦朧としてきた。
おそらくヤツの毒が回っている。
甘く見ていた。
あいつは俺を覚えていたらしい。
あの時とどめを刺しておくべきだった。
あの子は無事だろうか。
それだけが気がかりだ。
あの子に何一つ
遺してやれなかった。
俺の一生とはなんだったのだろう。
もし、誰かこれを読んでいるのなら、
頼む。あの子を――」
ここで私は初めて、この遺骨の持ち主が死んでからあまり長い年月が経っていないことに気づいた。防腐処理も施されていないのに、紙の劣化が少な過ぎる。この死骸はおそらく最長でも一ヶ月前のものだ。
内容を見るに、どうもこの冒険者がくだんのエンミティと戦ったらしい。毒を受けて死んだのだろう。「あの子」とは娘のことだろうか。何にしても気の毒なことだ。しかし、この手記からはそれ以上の感情は引き出されなかった。
次いで私は彼の持ち物を確認した。死人の所持品を盗む事に気が引けない訳ではないが、こちらとて生死を賭してここに来ているのだ。誰に糾弾される謂れもない。レクリアの水、懐中時計、期限切れの食糧など、さして目ぼしいものは入っていなかったが、一つだけ私の目を奪うものがあった。それはこの名も知らぬ男の手書きらしき一冊の本だった。私が驚いたのは表紙に書いてある文字で、そこには「アグリア教本」と書かれていたのだ。
看板に偽りなく、内容は古代アグリア語の文法書だった。しかし、古代アグリア語は未だ未解読の言語のはずだ。この男が彼等の文字を解読したというのか?だとすればなぜこんな所で行き倒れているのか?謎が残る中、私はこの文法書と数点の遺品を持ち去り、その場を後にした。教本に関しては、売りに出せばおそらく数千万ゼルは下らない値が付くだろう。が、それ以上に未解読言語の文法書があればこの遺跡の攻略に少なからず役立つだろうというのが此れを持ち出した主な理由だった。
其れから懐中時計の長針が四回半ほど周った頃、私はようやく第二層へと続く階段を見つけた。しかし、すぐに降りる訳には行かない。ここまでのルートは覚えているし、魔物が潜伏している可能性のある場所もある程度絞り込めた。ここからはトレジャーハントの時間だ。兎にも角にも安全第一なので、ここまでは敢えて宝の発掘には意識を回していなかった。宝探しは階段を見つけてからでも出来るが、宝を全て見つけ終えた後路頭に迷ったのでは意味がない。この要領で潰れる輩は存外多い。目先の欲望に素直過ぎる者はトレジャーハンターには向いていない。寧ろ宝など金稼ぎの道具に過ぎないと割り切ったアンチロマンチストの方が適しているだろう。
一般的なトレジャーハントは金属探知機を使うのだが、厄介な事にアーティファクトは此れに反応しない。無論一部は反応する物もあるが、未知の材質で出来たものが多く、これらを見つけるにはしらみ潰しに採掘する他ないのだ。
宝探しは単調な作業である。もしこれが一種の物語や自伝であったとすれば、これほどまでに描写するに値しない職業は無いだろう。古の秘宝を探すと言えば聞こえは良いが、やっている事は遺跡荒らしと変わらない。中には謎解きを必要とするような宝もあるが、それは古代アグリア人が意図的に封印したもので、遺跡というのは文明跡であるため、殆どの宝ーアーティファクトーは時間経過で埋もれているだけにすぎない。
その「謎解き」系の封印も、一筋縄では解けない。古代アグリア人はその異様に発達した脳のためか、謎解きやパズルの類の遊びにずいぶんと興じていたようだ。例えば、有名な川渡りのパズルは古代アグリア人が発案したものだという。私にとっては、謎掛けがあるという事は何かが封じられるという目印になる反面、その先にあるのが必ずしもアーティファクトだとは限らないので(金塊であったり、個人の日記であったりする)、無駄になる可能性が分かっていても謎解きに体力を使わなければならないという枷でもある。時間消費の点では虱潰しよりましでも、頭を使うと精神力を消耗する。私にとってはアグリアの謎を楽しんでいる暇はない。
それでもどうにか第一層のアーティファクトを洗いざらい探し出し、懐中時計の長針がはじめにここに入った時よりちょうど一周した頃、私はようやく第二層へと向かった。すると、私は想像だにしていなかった出来事に遭遇した。第二層へと続く階段の手前に、ひとりの少女の姿があったのだ。歳は見たところ九歳ほど。手には熊のぬいぐるみを抱えている。それ以外に持ち物はないようだ。髪はうつくしい黄金色をしていて、洞窟の松明の燈に照らされ、宝石の様にちらちらと光っている。瞳は深海を閉じ込めたような深い青色で、どこか寂しげな顔をしてただ私をじっと見つめていた。
突然、少女が口を開いた。
「だれ?」
私はややあって、答えた。
「それはこちらの台詞だ。なぜ君のような年端も行かぬ少女がこんな危険な遺跡にいる?」
「……贖罪のために」
「贖罪?」
少女は、長い睫毛を伏せて、自嘲的とも取れるような笑みを浮かべて言った。
「私は、魔女だから」
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