アダルト同人誌に潜む天才たち
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今日は、エロ漫画の話をします。
こう見えても俺はエロ漫画にはうるさくてね……(最悪のキモオタ導入)
いや、正確には、エロにはあんまり興味ないんですよ。お察しの通り。
ただ、前もちょろっと言ったけど、「エロ漫画」という媒体で敢えて”シナリオ重視”をやろうとすることで、普通の漫画には出せない効果を発揮することがあるんですね。広義的にはオナマスとかもそうなのかなぁ。あとベターガールズとか。搾精病棟が流行ったのも、エロかったからじゃなくて話が面白かったからでしょ。
まぁ、俺が言いたい「効果」っていうのは、正確にはそれらとはちょっと違うのだけど……。ここらへんは本当に言語化が難しいんですけど、俺は「エロ」って「戦争」の対義語だと思ってるんです。エロって、平和の象徴じゃないですか。ものすごく、平和なんです。エロが発生し得る環境というのは。もちろんレイプモノとかだと違うけど、いわゆるイチャラブとかは、「エロがある」ことがむしろ平和さに拍車をかけるんです。シナリオ全く同じのイチャラブを、エロ抜きの場合とエロありの場合でやったら、絶対後者のほうが平和でおだやかな感触を受けると思う。
「奴隷との生活」があそこまで異常な売れ方をしたのも、「可愛い奴隷とセックスがしたい」からじゃなくて「可愛い奴隷と穏やかな暮らしがしたい」からなんです。あのゲームはオタクが心の底で望んでいる”ほんとうのもの”を機敏に察知して、そこを重点的に作り込んだからバカ売れしたんです。こういう場合において、「エロ」は必須物であると同時に添加物でもあるんです。
だから、俺はエロ漫画って性欲処理の道具というよりは「特殊なフィールドでの自己表現」をした作品として見ている。
それでね、この特殊フィールドには時折天才がいるんですよ。「エロ漫画」という媒体を最大限に利用してリアルをやりにいった天才どもが。
実は、この「天才」という表現も俺は二種類あると思っていて、『特殊性癖に関して圧倒的に覚悟完了している』タイプと、『エロ漫画でしか成立しない環境を利用して、めちゃくちゃおもしろい物語を書ける』タイプがいるんです。
前者はみのり研究所とかH2O Aquariumとかみんなだいすき先生が上がってくるわけだけど、残念ながら今回紹介するのは後者です。
【選出基準】
・短編(最長50P)の1話完結のみ
・物語としての質(70%)と、作品の雰囲気(30%)のふたつを評価軸とし、「エロさ(抜けるかどうか)」は度外視とする
・緑のルーペ先生はあまりにも強すぎるので今回は除名とする
※作品のネタバレが大いにあるので注意
るんのサクセスストーリー - 前島龍(全24P)
これは、蠍の火です。宮沢賢治です。レ・ミゼラブルです。
前島龍先生のはだいたい全部強いんだけど、最大瞬間風速で言うとやっぱりこれに軍配が上がる。
主人公の最上るんは、12歳にして「キラぷち」という雑誌のモデルを努めている。
しかし、モデル界は競争の世界。学校では一番かわいくても、雑誌の中では微妙な位置。
しかも、彼女と同じようなキャラでもっと人気のあるモデルもいるようだ。
有名になれないことに悩むるんは、小遣い稼ぎに援交に手を染めてしまう。
とまぁ、ここまでは割とよく見る話だが、ここからの展開が凄まじい。
るんは、ある日、援交相手の男に自分がモデルであることを見破られてしまう。
聞くとその男は最上るんのファンで、彼女が援交用にアップした写真と、雑誌に載っている最上るんの
ホクロの位置が一致していたことから、同一人物であるとわかったらしい。
男は「バラされたくなかったら、おじさんのエロペットになって好きなときにタダマンさせてよね」とるんを脅迫する。
普通のマンガならね?ここで、泣いて嫌がったり、「助けて」と叫んだりする、いわゆるnon-conの展開になるじゃないですか。
小学生を脅して好きなようにチョメチョメする、という、そういう展開にしかなり得ないスロープなはずなんです。
あるいは全力で逆張りしたとしても、実は彼女はとんでもないビッチで「こういう脅されシチュ大好き❤」とか、
そういう方向に持っていくくらいしか、常人には思いつかないわけですよ。
しかし、このマンガはそのどちらでもない。想像だにしない展開へと持っていった。
先程のセリフをキモ男から言われた直後、るんは泣いてしまう。
当然、男は「怖くて泣いちゃったかぁ。かわいいけど誰も助けになんて来ないよ?」と煽り立てる。
「ち…ちがっ違うの…」と泣きじゃくる少女に、男は「違わないでしょ?君はち○ぽ大好きな最上るんちゃんなの」と詰め寄る。
しかし、るんが泣いていた理由は全く違うものだった。
「ファンって言ってくれたのっ うれしくて……っ ホクロとか…自分でも知らないのに…っ
そんなトコですぐ気づいてもらえたの、うれしくでぇっ… あたしのこと知ってくれてなんか涙ぁ…っ、出てぇ…っ」
「全然有名になれないって思ってたから… おじさん ありがとぉ…」
これですよ。誰が、こんな展開にできるんですか。こんないっぱいの花束に誰が囲まれると思うんですか。
この展開に至るまでのページ数はわずか、3ページです。
たったそれだけのページ数で、これを成立させるための伏線を入念に撒いていたのだ。一コマも無駄にせず。
これは、エロ本だ。エロ本においては「起承転結」は凡そ存在せず、殆どの作品は「導入-エロ-オチ」で構成される。
そして9割の読者にとって重要なのは真ん中のエロのみだ。そんな、そんな環境で、彼は書いてみせたんです、
小学生にしてモデルとして活動することの重圧が、本当のファンと出会えて解き放たれ、溢れる涙を。
この後、男はさすがに意表を突かれて、「ええ~どういうこと?」と困惑したあと、
親身になって話を聞いてやり(このシーンも本当にいい)、
最終的には「で…どうしようか せっかくホテル来たけど…帰る?送っていくよ?」と、
当初の目的であったタダマンを諦めているのだ。
しかし、そこでるんは言うんです。
「なんかさー泣いちゃってフンイキないけど…なんかゴメンけど… する?おじさんしたいっしょ?」
ここで、non-conだった物語が、conへと色を変え、すべてが救われる。
承認に飢えて援交に手を染めた少女、それを脅すしか生きがいがない男、すべてが流転し、
全部が報われる朝を迎えるのです。
ももむすめ - 桃之助(21P)
開幕一コマ目で、「桃娘(tao niang)」という中国の都市伝説の説明から始まるという異質なスタートを切る。
桃娘とは、乳離れした時期から桃しか与えず、桃だけを食べるよう徹底した食事管理のもと育てられた少女のことを指す。
彼女たちは桃以外で栄養を摂取できないため、ほぼ間違いなく糖尿病になる上に、常に栄養不足であったことから長生き出来ず、ほとんどの少女が10代のうちに命を落としたそうだ。
ではなぜ桃だけを食べさせていたのか?それは、中国においては桃は不老長寿の食べ物とされており、桃娘の体液や血肉を摂取すると不老不死になれたという。故に桃娘は性奴隷として体液を摂取されたり、死後は人肉を薬として喰らわれていたとのこと。
もちろん実在したかも定かではない都市伝説にすぎないが、この物語はそれを特殊な形でなぞらえていく。
ある父親が、娘の桃花と二人暮らしをしていた。育てるのは大変だったが、本当に愛らしく美しく育ったようだ。
しかし、桃花は実はこの男の娘ではなく、彼の亡き姉の一人娘だった。
大好きだった姉が結婚して遠くへ行ってしまい、久しぶりに連絡が来たかと思えばそれは彼女の事故死を告げるものだった。
男は、壊れそうな心を繋ぎ止めるための術として、彼女の残した唯一の形見である「桃花」を自分の思い通りに育て上げることで姉の生き写しにしようとしたのだ。
彼は姉と自分を精神的にも肉体的にも離別させた「結婚」を憎んでおり、生き写しとして蘇った姉を二度と他の男に渡さないため、自らが桃花と結合するという選択を取る。
「何もいらない このためだけに生きてきた……」
決行の夜、男は寝込みを襲いに行くと、桃花のつけっぱなしのスマートフォンにメールの下書きが残っているのを見つける。そこには「あなたが好きです。いつかあなたのものになりたい」という、見知らぬ誰かに宛てた恋文が書かれていた。
それは、男の最後の良心を打ち砕き、罪への導火線に火をつけるのに充分な言葉だった。
ここから、父親は桃花の口と手足を縛って彼女をレイプしだすわけですが、そこからの展開が本当に凄いんですよ。
これは、ちょっと、あまりにも巧妙な伏線の貼り方と回収なので、ちゃんと説明しようと思うとすべてのコマのセリフを引用しなくてはならなくなるから、結末は自分の目で確かめてくれ。
とにかく、この作者は絶妙な表情の変化を描くのがめちゃうちゃうまい。桃花は犯されている最中、ずっと猿轡をされているから喋れないわけですが、「目」で云っているんですよ。それは父親の目も読者の目にも映らないほど微細な変化なのだけど、すべて読み終えてからもう一度見返すと、その「目」が何を意味するのかがハッキリと分かる。特に10Pの最後のコマ!!ここの表情、桃之助さん以外この世の誰にも描けない。
しかも、さらにマジで凄いのが、口を塞がれていても禰豆子みたいに「ん゛ー!」みたいなセリフはつけられるわけですけど、この作者、そういう喘ぎ声だけじゃなくて、「……」というただの沈黙もわざわざフキダシつけて表現するシーンがあるんですね。一見、完全に無駄に見えるんですけど、実は無駄じゃないんです。10Pの、あのタイミングでの「……」は、もはやどんな言葉よりも”””発言”””なんですよ。その、「無言が伏線となり得る」という構成が尋常じゃない。
本当にすごいです、この作品は。唯一欠点があるとすれば、最後まで読んでも都市伝説の「桃娘」との関連性がわかりにくいこと。俺の解釈としては、伝承において時代の権力者の薬や性奴隷としてモノのように扱われて搾取されるだけの存在だった「桃娘」が、そのレゾンデートルに対するアンサーを返したお話なのだと思います。でも作中では特に説明はされない。
サラ・オン・ザ・ビデオタワー - 荒田川にけい(18P)
「おひさまはまわる」に収録されている短編。
もう、まず、タイトルからして最高よね。「サラ・オン・ザ・ビデオタワー」って。シャニマスのサポートSSRか。
この物語は、とにかく説明が少ないです。そのぶん、絵で語ります。
男が働いているビデオレンタル店には、毎週金曜の夜に小さな姉弟がやってくる。
子供が出歩いていい時間ではないが、何か家にいたくない理由があるのだろうと察した男は、来るたびにふたりに大きなキャンディをあげていた。舐め終わるまでは、帰らなくてもいいように。
しかし、しばらくすると、あの姉弟が店に来なくなった。心配する男をよそに、外では雪が降り出す。
すると、その日、姉の方だけが一人でビデオを返しにやってきた。頬に大きなアザを残して。
「今日はビーター(弟)は?」と男が聞くと、「父親のとこに行った」と返す。
「君は一緒に行かなかったの?」と聞くと、「ビーターとは父親が違うから」と答えた。
男は思慮する。どこまで聞いて良いのだろう。君がここに来ている時、母親は何をしているのか。君の父親はどこでどうしてるのか。そのアザは、誰がつけたのか。
聞いたところで、何をしてやれるのか。
と、このあたりまでが所謂「導入」なんですが、とにかくね、絵で語るのが上手いです。セリフが本当に少ない。
量自体はそこまで少なくはないのだけど、間投詞や状況説明が多いから、「キャラクターの心中」を告げる言葉はほとんど発せられない。
最後のコマで、バート(主人公の男)がサラ(姉弟の姉の方)に手紙を残すのだが、その手紙の内容も一切明かされない。
のだけど、ここまで情報量を削っても、ギリギリ考察できる範囲のピースをばら撒いてくれているんですね。その量の調整が絶妙。これ以上削ったら絶対わからないし、絵の表現力が少しでも足りなかったらサラ・オン・ザ・ビデオタワーは成立しなかった。
とにかく最後のページが好き。詳細は伏せますが、「うわっ ……映画みたいだ」というセリフで終わるんですよ。その絵が本当に綺麗。それまでのページはすべて「夜」か「暗い部屋」で、ほぼすべてのページの背景色が暗色だったのが、最終ページだけ「朝」ですべてのコマに光があるんですよね。っぱサラ・オン・ザ・ビデオタワーなんだよな……
労働少年 - たなかな(33P)
家の都合で毎朝新聞配達をしている少年、衛。
配達先のボロアパートで、毎朝会うおじさんの事が気になる日々。
ある日おじさんが衛に話しかけてきて、2人の交流が始まります。
しかし新聞配達の賃金だけでは足りない衛は、ある朝おじさんに援交を持ち掛けて――…
公式説明文より引用。だいたいそのとおりなんですが、この「おじさん」のキャラの立ち方が凄まじい。
名も知らぬ新聞配達の少年のことを、「おやすみ 日向小次郎くん」って呼ぶんですよ。これでピンと来るか否かで、この本を楽しめるかどうかは変わってくる気がする。
それと、援交を持ちかけるって書いてあるけど、そんなスっと行ってないです。まず、衛が学校で「昨日いきなり知らないオッサンがキスしてくれたら一万円くれるって言ってきたんだよ」「最近そういうの多いらしいよ」という噂話を聞いてしまう。ここで初めて彼は「そういうビジネスがある」ということを知るんです。
衛の父は小さな会社の社長をやっていたが、借金を抱えて倒産して、母と離婚することになってしまった。でも、衛は父親が大好きだったから、また三人で暮らすために、朝も夕もバイトをしているんです。遊ぶ暇もなく。
だから彼としては、キスで1万貰えるならやらない手はないわけですね。そこでふっとあのおじさんの顔が浮かぶ。貧乏なのにわざわざ新聞取ってるし、毎日自分のことを待ってるみたいだし、もしかして自分のことを「そういう目」で見てるんじゃないだろうか、と疑い出すわけです。
それで明くる日、ついに「オレのこといかがわしい目で見てるんですか?」と聞いたんですが、おじさんは「キミは男の子だし 今まで考えたことなかったけど そういうつもりはないかなぁ」と答えるわけですね。真顔で。つまり、完全に衛の勘違いだったんですよ。まず、ここが凄いよね。別におじさん嘘は言ってなくて、元妻持ちだし、本当に衛に対して性的な感情はなかったんです。でも、いきなり衛がそんなこと言うもんだから、「そうだとしたらどうなの なんでそう思ったの」と問い詰めるわけです。
そこで衛は家庭事情を話すわけですが、おじさんは「俺はキミに特別な気持ちはないけど キミのことは支援してやりたいと思ってる」と、彼のために援交”してあげる”ことにしたんですね。
しかもその援交っていうのも、ただキスするだけ。しかもそれだけで3万。キスだけでいきなり3万も貰った衛は、良心に耐えかねてお金を返しに行くんです。「おじさんみたいな優しい人にこんなお金を貰うわけにはいきません」って。
―――だからおじさんは、「優しい人」を辞めた――――
もう、全米が泣くよ。ここからの展開は。彼のために「優しい人」でなくなる瞬間がね。優しい人を辞めるという選択が何よりも優しいことの証明という、とんでもないトリックになってるわけですね。
情事の中で、おじさんの過去も語られるんだけど、それがまた悲痛なのよ。
この漫画は、「喪失」に人生を締め付けられていた二人が、手を取り合ってその穴を埋め合うお話なんです。
最後の2ページのモノローグが特に好き。
働くことって大変で
自由な時間もないし
辛くて嫌なことばかりだけど
それでも誰かの役に立っていて
それが何より嬉しいから
今日もオレは頑張れるんだ
これは、痛みを分かち合った二人の物語――
他にも「岬まで」とか「まぐわいシエスタ」とか「日陰の詩」とか、紹介したいのいっぱいあったんだけど、1作品につきこれだけ語ってたんじゃ流石に持たないんでもうやめます。とりあえず、俺はエロ本が好きだ。
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