音楽的トリック
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http://resurrection237.blog.fc2.com/blog-entry-572.html にも書いたような事だが、私は音楽的トリックが好きだ。つまり、「音楽」に介在する仕掛け、観客を”騙す”トリック。とりわけミステリ作品のように「叙述者」が存在出来る歌モノに多い、というかやりやすい。(トリックと銘打ったが、実際には『冒頭数十秒~ワンコーラスを聴き終わった後の印象と最後まで聴き終わった後—もしくはさらにそれ以降—の印象が著しく変わる音楽』と大雑把に捉えてもらった方が良い)
[リリック・トリック]
最も数の多い仕掛け。音楽的といったが、やることとしては小説と変わらない。ただ、小説・ノベルゲーム・漫画などの媒体で容易にできることでも、それを音楽でやるのはかなり難しい。つまり「音楽という媒体を使ったトリックアート」の尋常ではない難易度がexquisitenessを増強しているのだ。歌詞という叙述者を使った騙しは要するに「音合わせの縛りプレイを課しただけのシナリオ的トリック」である。しかし差別化はできていて、他の媒体との最大の違いは「流れている伴奏そのものがストーリーテラーの一人として加わってくる」点にある。人は音に色を見出す。音に温度を見出す。音に姿を見出す。叙述とともに流れる「音」を操ることで、ストーリーテーリングの流動速度を加速あるいは逆転させることができる。熱を帯びていく歌詞に徐々にアガっていく伴奏を加えれば与えるクオリアを増強できるし、逆に絶望感溢れる歌詞に底抜けに明るい曲をつけてやれば独自の諦観のようなものを生み出せる。あるいは「俺の彼女」の如く、歌詞と音楽の起伏を巧みにリンクさせることで徐々に真相が明かされていくかのような、まさしく「小説のような音楽」を生み出す事もできる。基本的にリリック・トリックが最も簡単かつ効力の大きい音楽的トリックだろう。
考えうる仕掛け:
【パターンA】プロット・ツイスト系 e.g. 俺の彼女,サイノウサンプラー,MAD BITCH(ちょっとおこがましい)
【パターンB】「音楽」を主体として歌詞を利用したタイプ e.g. 小説家みたいなあなたになりたい,笛吹けども踊らず
[グラマー・トリック]
正確にはリリックトリックの一部に属するが、あまりにも特殊なので専用の分類を設ける。
歌詞の「構造」そのものに大仕掛けがあるタイプ。これなんかは、PVが無ければ仕掛けそのものに気づきにくいというのを差っ引いても衝撃を受けた。こういうのがやりたいな、こういうガツンとショックをくれるもの。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm22410177
考えうる仕掛け:
・縦読み,斜め読み,飛ばし読み,逆さ読み,逆再生で全く別の歌詞が出てくる
・mugs系
[外部トリック]
「歌詞」「音楽」以外を利用したもの、もしくはそれ以外の要素をトリックの成立に必須とするもの。大凡邪道なものが多い。
例えば、歌詞だけ見ると割と普通なのだがMV内でその歌詞が実はとんでもない解釈をされていた、という感じ。ちょっとパっと例が浮かばないが。
あるいは、「カゲロウプロジェクト」のように楽曲の理解に事前知識を必須とするものもこれに分類されるだろう。曲解すれば「墓前」も此れかも知れない。どっちかというと僕呪の方がそうだと思うけど、あれに関しては観客に十分な情報が与えられていない(作者にしか本当の意図がわからない)のでトリックとして成立していない。
さらに、みんな大好きAll your faultもこのカテゴリに属する。ぶっちゃけ俺自身があんまり知らないのでなんとも言えないけど、MV内のサブリミナル情報や音楽データの波形解析などを利用したトリックが仕掛けられているようなので外部トリックだろう。
とにかく、外部情報ありき(ただ音楽プレイヤーでそれを聴くだけでは得られない情報に頼った)のトリックがこれらに属する。
[ライトモチーフ・トリック]
これも外部トリックの一種だが、他のとは根本的に異なる気がするので分ける。
これは基本的に「BGM」に限定されるだろう。要するに、シナリオの展開を利用したリフレインだ。ぶっちゃけた話、Undertaleだ。何気ないフレーズを、複数の音楽で使い回すことで、「フレーズ」に「キャラクター」あるいはその他の特殊な意味を持たせる。美しい手法である。
これを使えば、例えば正体不明のキャラクターの専属BGMがどこか主人公のテーマと似通っていたりすると「この二人、もしや……!?」みたいな感じで「伏線の一つ」として利用できたり、あるいはOP曲ののアレンジが最終バトルで流れたりすると激アツになったり、音楽が作品を、作品が音楽を補強し合うことができる。
考えうる仕掛けは無数にあるが、最近特に「おっ」となった物はDetroit:Become Humanの「Run With Me」のライトモチーフの使い方はうまいと思った。「追跡側」のコナーのテーマが徐々に迫っていく焦燥感は圧巻。
個人的にグラマー・トリックが最も衝撃が大きく、かつ難易度が高く、美しい。一回「何らかの仕掛けのある音楽」を10曲くらい作ってアルバム作ってみたいな。さらにアルバムのタイトルやアルバム全体の流れそのものに仕掛けがあったりしたら最高じゃないですか?やりたくない?やりてぇ~。
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